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新作にはない価値も丁寧に届けていく。マザーハウスの「最後の一品店。」

「途上国から世界に通用するブランドをつくる」 という理念を掲げ、バングラデシュやネパールの職人さんたちと共に上質なファッションアイテムを世に送り出しているブランド、マザーハウス。

「途上国の可能性を証明したい」。そんな想いでモノづくりを続けてきた一方で、「純粋に商品の良さで選ばれることこそ本質」と捉え、長く愛せる上質なバッグ、ジュエリー、アパレルなどを生み出しています。


そんなブランドの拠点がある台東区に、新たな店舗として「最後の一品店。」がオープンしました。

生産が終了していたり、取り扱いが10点以下になったりした、希少なアイテムだけを取り扱うユニークなこちらのお店。

その存在の背景には、マザーハウスが大事にしている哲学がつまっていました。

台東区に拠点を置くマザーハウスの新たな取り組み「最後の一品店。」

2006年にバングラデシュでのモノづくりからスタートしたマザーハウス。現在は国内外に店舗を構える人気ブランドとしてその名を知られていますが、一号店は台東区入谷の小さな建物を自主改装してオープンさせたそう。

以来、イースト東京に拠点を置きながら、6つの生産国で素材開発からモノづくりまで一貫し、途上国の持つ魅力的な素材と職人の技術を生かした商品づくりをしています。


バングラデシュにある自社工場の様子

そもそもマザーハウスの根底にあるのは、モノづくりを通して、途上国の素材や技術の可能性を証明していくこと。一方で、社会貢献の背景にとらわれずに、アイテムだけを見て「ほしい」と思ってもらえるような、上質なモノづくりも大事にしています。

そんな姿勢やコンセプトにはファンも多く、近年ではテレビなどのメディアでも取り上げられています。そんな風に注目される中、2023年に本社のすぐそばにオープンしたのが、「最後の一品店。」でした。


建築家の藤森照信氏によってデザインされた店舗は、外観も特徴的

「当店は『最後の一品店。』という名前の通り、在庫数が少なくなったアイテムや、生産終了となった過去のアイテムを集めた場所です。マザーハウスがこれまで生産してきたアイテムを、最後の一つまで大事にお届けしたいという想いから誕生しました」

そうお話ししてくれたのは、「最後の一品店。」の店主である吉浪(よしなみ)さんです。


「最後の一品店。」店主の吉浪優香さん

そんな彼女も、マザーハウスの理念に惹かれて入社した1人だそう。

「私は広島県出身で、子どもの頃から平和教育を受けて育ちました。その延長として、海外で仕事をしたい、途上国に関する仕事をしたい、と思うようになりました。そこで、大学生のときにアフリカのケニアに1か月ほど滞在して、道路を整備するNGOの仕事を手伝う経験をしました。でも、現地にはもっと大枠の部分で政治的な問題などがあり、道路を整備するだけでは、その土地で暮らす方の技術にはならず、これが本当に人々を貧困から救うことにつながっているのか疑問に思う面もあって」


学生時代から途上国支援に関心が高かった吉浪さん

「マザーハウスでは、途上国の素材や技術に光を当て、現地でモノづくりをする人々もどんどんスキルアップしていけるという好循環が生まれるしくみができています。ここでなら自分のやりたかった、途上国への社会貢献をしながらの仕事ができるなと思ったんです」

そんな吉浪さんは、「最後の一品店。」の店主になる以前から「RINNE(リンネ)」というプロダクトを担当してきました。

同じモノが一つとして生まれない「RINNE」のバッグたち

「RINNE」は、生産過程で出るレザーの端材や、役目を終えたバッグの回収によって集めたレザー素材を再利用したシリーズです。

マザーハウスでは、購入したレザーバッグのケアや修理を行うことでより長く使ってもらうための「ソーシャルヴィンテージ」というサービスがあり、回収もその一環です。

そこから新たな商品へと生まれ変わっていく過程が「輪廻転生」に似ているところから「RINNE」という名前をつけたのだそう。

「もともとは、新店の責任者を任せたいと声をかけてもらったときに、、職人の手仕事にフォーカスしたお店にする案や、商品を限定したショップにする案もあったんです。そこからさらに話が広がって出来上がったのが『最後の一品店。』でした」

こうして、“ものを無駄なく大切に扱う”というテーマで作られた「最後の一品店。」。オープンからそれほど時間は経っていませんが、早くもドラマが生まれているようです。

最後の一点まで丁寧に届ける。ブランドとしての責任と意志

それぞれが引き立つようにディスプレイにもこだわっています

多くの場合、在庫として「残ってしまった」商品は、セール品として安価で売られるか、廃棄されてしまいます。

しかし、マザーハウスではこれらを「希少価値の高いモノ」として、適正価格のまま「最後の一品店。」に並べています。他の店舗よりも個性豊かな商品がラインナップされているため、色味ごとに配置するなどディスプレイも配慮しているそう。

「当初は、『こんな変わったコンセプトでもお客様に喜んでもらえるのか』と不安もありました。でも、オープン当日に行ったオンラインイベントを見てくださった方から、配信終了の5分後にお問い合わせをいただいたんです。『先ほどの映像にずっと探していたアイテムが映っていたのですが、まだ買えますか?』って。『最後の一品店。』のような存在を求めてくださる方はいらっしゃるなと自信が持てた出来事でした」

「最後の一品店。」の公式LINEやInstagramでは、現在も「ずっと探していたあの商品、そちらに在庫でありませんか?」というお客様からのお問い合わせが全国から寄せられているそうです。

また、お店では購入者の方に「サンキュープチギフト」があったり、SNS登録をしてくれた方には来店時にオリジナルのレザーチャームをプレゼントしたりしています。これらも、過去のノベルティやレザーの端材を活かして作られたものたちなのです。

好きな色味とアルファベットを2つ選ぶことができるレザーチャーム

「最後まで素材や資源を大切に、お客様に届けていくという気持ちが『最後の一品店。』には強くあります。来ていただく方にもそこに共感していただいて、最後にこうしたささやかなプレゼントをお渡しすることで、『嬉しいお買い物ができたな』と思える時間を過ごしてもらいたいなと。そういう意味では、他のマザーハウスの店舗との違いはあるかもしれませんね」

そもそも「最後の一品店。」というシンプルで潔さを感じる店名は、約100個も候補があった中で最終的に決まったものだそう。

「最後の一品」という言葉には、「特別感」と「最後までお客様にお届けしたいという責任」が込められ、さらに、あえて店名の最後に「。」がついているのには、「第1章が終わる」という意味合いと、お客様の元に届いて「第2章がはじまる」という2つの意味があります。

今も昔も、モノづくりの街から育まれる人とのつながり

最後に、「最後の一品店。」も含めたマザーハウスと、街との関わりについても伺いました。


秋葉原にあるマザーハウス本店

バッグやアパレルなどのブランドというと、銀座や青山などの立地に店舗を構えているイメージが強いですが、マザーハウスの拠点は創業時から台東区。

当初は在庫を抱えたまま開業するために、予算が少ない中で倉庫として借りた場所が台東区の入谷だったそうです。

「そこで代表兼チーフデザイナーの山口が作業をしていたところ、通りがかりのおじさんが『これ売ってるの?』と声をかけてバッグを買ってくれたことがきっかけで、『ここでお店もできるかもしれない』と思ったことが、入谷に1号店ができたきっかけなんです」

昔からモノづくりが盛んなエリアなので、街のひとたちもモノの良さが分かれば認めてくれる、そんな実感があったそう。また、革製品の工房が多いのも台東区ならでは。創業当初は鞄作りの技術を向上させるためにも、ブランドにとって大事な場所でした。

「街の人たちの『気さくさ』もこのエリアならではの魅力です。先日は、作業服を着た男性が仕事の休憩中にお店にやってきて、奥様へのプレゼントを選んで行かれたかと思えば、今度はご自身のお財布を買いに来てくれて。他にも、ランニング中に立ち寄ってくれた方が改めて後日お店に買いに来てくださったりと、ふらりと気軽にお店に来てはリピーターになっていただけるケースも少なくないんです」

ソーシャルアクションに関心が高い人々とも、純粋にマザーハウスのアイテムに惹かれた方とも、あたたかな関係性が築かれている「最後の一品店。」。

大切に作り、大切に売られているモノたちと出逢うために、ぜひお店を訪れてみてください。想いのある店員さんたちとのやりとりもきっと楽しいはずですよ。

素敵なHello!が、今日もあなたに訪れますように。

(取材・執筆:山越栞)

最後の一品店。
住所東京都台東区台東1-10-6 サワビル 1F  Google mapで見る
営業時間12:00 - 20:00(日曜のみ:19:00まで)※平日14時~15時はお昼休憩
定休日月・火曜日
TEL03-6806-0987 ※在庫の確認も可
WEBhttps://www.mother-house.jp/blogs/shop-list/saigono-ippin-ten
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※本記事に掲載している情報は、2023年6月時点のものです。

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